Moonlight scenery

     The ancient mystery?”
 


     3



 居並ぶ木立ちはオリーブやオレンジ、月桂樹。鉢植えにはベラドンナにインパチェンスと、様々な翠したたる翡翠宮のその奥向き。王宮専属の車輛部格納前にて、数刻ぶりのご対面と相成った、第二王子とその隋臣らという主従同士ではあったれど、

 「お前、ここでの“視察”は1時間じゃあなかったか?」

 のほほんとした国情ではあるが、それでも…くどいようだが現在ただ今は、外貨の書き入れどきでもあるバカンスシーズン。どこぞかのお国では芸能人が抜擢される、キャンペーンガールとやらと似たよな響き、ぶっちゃけた言いようでの“観光大使”でもある王子には。名前やイメージだけ重用される宣伝用マスコットにとどまらぬ、きちんとした役職であればこその、山のような執務があるはずだってのに。
「いつまで油売ってるかな。」
 次の予定があったはずだぞ、とっとと執務室なり予定の場所へなり向かわんかと。お仕えする主人へこの口利きでのお声をかけつつ、お仕着せのシャツの胸ポケットに手をやり、パスケーズサイズの大きさ薄さという、モバイル仕様の電子手帳を摘まみ出したゾロだったが、

 「今日は いいんだもんよ。」

 そっくりな本物さんが“???”と小首を傾げて、黒々した鼻先を擦りつけてくるメカメリーにまたがったまま。もっとずんと幼い子供みたいに、ふかふかな毛並みへすりすりと頬を埋めつつ応じたルフィが言うには、
「ゾロが言ってんのは、G国大使ンとこのおばちゃんとのお茶会とか、何とかいうエヌピーオーさんとの面談会見とかだろ?」
「…大使夫人つかまえて“おばちゃん”は やめとけ。」
 まったくだ。
(苦笑)

 「だからサ。
  ここで遊んでたらエースから連絡があって、
  シャンクスが早めに戻ってくっからって。」

 大使夫人はそっちのお出迎えの準備で忙しくなって来れなくなったって。NPOの代表さんも、同じ理由だろ“それでは日を改めて”って言って来たぞって。

 「だから。午後は暇になったんだよなvv」

 表向き 私的な集いだとはいえ、相手側にしてみれば、王族と逢うことにこそ何かしらの意味合いがある代物であり。バックアップしてもらえる…とまではいかずとも、直接逢ったことがあるとか顔を覚えていただけているなんていう、極めて親しい間柄だという事実だけでも肩書に箔もつこうというもので。よって、実際に何かしらの条約や約束を交わす訳でなくたって、そんな思惑がひそんでいるよなお茶会やらパーティーへの、ご招待だの申し出だのは引きも切らないのもまた、ルフィのような“親善大使”には付きものな苦役の一つともいえて。そういった堅苦しくも窮屈な会合というものが、いまだに苦手なルフィにしてみれば、分厚い歴史書を紐解くお勉強と大差ない苦役があっと言う間にしかも向こうからキャンセルと運んだのだから、

 “…おうおう、嬉しそうな顔になってまあ。”

 こちらからだって様々な人たちと縁
(よしみ)を結ぶのは必要なこと。よって、親善大使としては微妙にあるまじき感慨じゃああるけれど、あんまり気乗りしないのに粗相をしちゃあならない集まりが2つも消えたのだから、機嫌もよくなろうというもの。寝具のCMなどで売れっ子女優がマットレスへ頬擦りしてにっこりなんてな図を彷彿とさせる、心からの安堵に染まった笑顔にて、長毛種犬型乗用ロボットさんの首辺りへのすりすりを続ける王子様であり。

 「…成程な。」

 手のひらの上、親指による操作で呼び出した情報の欄には、確かにその旨が加わっている。さっきまでいたランチ・ミーティングの場では話題にさえならなんだので、関係各所へ通達が回される前の情報なのに違いなく。大方、シャンクス陛下直々のご連絡による“家族間伝言”というレベルで知らされたルフィだったに違いない。それでなくとも、国王陛下も皇太子殿下も彼には激甘。お茶会なんての、大事なことではあるが苦手〜としていることくらいは重々ご承知であったろから。こういう報をもたらせば彼がどれだけ喜ぶかも御存知な上での“速攻帰国手配&王子への連絡”だったと思われる。

 「となると、ご帰国の準備を進めることとなりそうってことか。」

 会合は減るが、帰国なさる陛下をお出迎えする準備が前倒しになる。今回の外訪は、友好国で催された式典への出席のため。国政に関わるような、若しくは大きな条約がらみの代物ではなかったので、出迎えもさほど盛大なものにする必要はないとされているけれど、この時期であることがそちらへも多少は影響しており、

 「おお。仰々しいパレードなんかは、さすがにやんないらしいけど。
  空港から馬車仕立てての帰還って運びになるんだと。」

 日本でも、新しい在日大使が就任するときは、大使館から皇居(あれ? 外務省だったかな? 迎賓館だったかな?)まで、馬車を仕立ててお出迎えに…って形式を、今でも守っているのだとか。小さいながら、随分と歴史のある王国の、しかも王族の移動ともなりゃあ、わざわざイベントに仕立てずとも見たいとする人は多かろし、しつこいようだが観光が産業の主幹である国。警護陣営の練達連中もその自信のほどから加担してのこと、サービス精神を発揮しなくてどうするかと、わざわざ日時を公示しての見物をつのり、一種“見世物”と化すのは必至だろう。

 “相変わらず信じられん王家だよなぁ。”

 万が一にも陛下の身に何かあってはと、冷静な判断の下、反対する者は一人もおらんかったのだろか。生え抜きの傭兵であるこの自分がそんな風に思うような、何ともとんでもない国だからなぁと、今更ながらに感慨深くなっていたゾロだったが。だからと言って、そんな彼もまた、由々しきことぞと立ち上がるつもりはほとほとない。一介の護衛官にすぎぬと 分をわきまえているというよりも、

 “あの国王が、そうそうその身を損ねるとも思えんし。”

 ご本人からして、結構な壮年だというにとんでもない身体能力を保持してなさる“超人”で。激動の第二次大戦直後という時期に、歴代の王の中、最も早くに即位したその身を、どれほどの組織や何やから狙われ続けたことだろか。各種武道に長け、それ以前に様々なことへの周到さを備えていた彼でなければ、到底躱せなかっただろう修羅場も数々あったと聞くし。それらを笑って語ったのがまた、そんな豪気で磊落な御主を、その身を楯にして護り切って来た、粒選りの練達で固められた直属衛士の皆様で。衛士などという穏便質素な呼称なのは、あくまでも警戒されぬため。仰々しい名にもそれなり意味はあって、腕自慢が囲んでいるというだけでも半端な組織は手出しせぬもの。どれほどの艱難かと辟易させる効果はあるが、

 『じゃあってことで、
  周到な連中が念入れて計画立てて、
  周囲への被害も何のそのって襲って来たらば剣呑だろが。』

 日本の警察はイギリスの警察を参考にしたという。イギリスの警察官は、随分と最近まで日頃は拳銃を所持せず、呼び子と警棒だけという装備で犯人逮捕にかかっていたのだとか。今でも警官による容疑者への威嚇発砲が全国のニュースで取り上げられてる日本と、消火器レベルで各家庭に常備されているがため、銃による悲惨な犯罪がとどまるところ知らぬ勢いで増え続けている某国と。銃声がしたらその場へしゃがめという基本を、十代で常識として身につけてる国ってどうよと、昔は呆れもしたもんですが………話が随分とずれて来たので、この辺で閑話休題。

 『そも、ウチの大将を狙うような輩ってのは、
  何にも知らないで名を上げたいってな馬鹿ヤロか、
  若しくは内情よくよく知ってる上で、
  どんな手使ってでもと口を塞ぎに来る手ごわい奴らかの二極なんでな。』

 ただでさえ手ごわい連中が、より一層用心し、周到に構えて掛かって来られちゃあたまらんと。だからこその質素な名を冠され、単なる係官や職員みたいに装って、さあいらっしゃいと待ち構えているのさと。ともすりゃレクリエーション扱いでいるよな口調で語ってくださった、ベン・ベックマンという古顔の衛士長さんを、ちょいと思い出してたゾロであったりし。

 “襲撃されんの、どっかで楽しみにしてるように聞こえたのは、
  ぜってぇ、俺の気のせいなんかじゃないよなぁ。”

 うんうん、それは私もそう思う。
(苦笑) 暢気な小国と見せといて、実は大変な実力秘めた国ゆえに、あちこちへそうまでの周到さを備えてもいるR王国なので。そんな王宮の皆様が、総出で愛して止まないルフィ王子をそうそう無防備にするはずがなく。ゾロという特別な護衛官を専属でつけているのみならず、この翡翠宮周縁へも数々の防衛陣営を敷いている。それだのに、易々と深入果たせた 彼(か)のメカニックさんだということは。それほどの巧みさで侵入したか、はたまた危険はないと見なされたのか。

 “……俺らは今だから判るこったが。”

 大形犬なのでおっとりして見えるが、あれで立派にルフィの身を守ってもいるメリーちゃんに、そりゃあもうもう懐かれてるところといい。用向きがあったのは此処に途轍もない練達の護衛官がいるって聞いたからだなぞと、公言なさった明けっ広げさをそのまま飲んでもよかろうと、そのプロフィールをあっと言う間に揃えた監視部署がそんな太鼓判を押した上で“お構いなし”と断じたからに違いなく。

  ―― 恐るべし、R王国諜報部。(今更…)

 本物そっくりなメカメリーとやらの試運転をこなしていたらしいフランキーが、ちらちらとこちらを見やるのは、最初の彼の目論みがまだ果たされてはないからだろうが。そこのところは…誰に言われずともご法度だと重々判っているお互いでもあって。そりゃあ、まあねぇ。選りにも選って、他でもない王宮内での乱闘・私闘が許されるはずがない。ゾロの方ではとうに当然ごとと刷り込まれている何てこたない禁令だが、わざわざこんなところにまで伸して来たような御仁、さぞかしストレス溜まりまくりに違いない。それでも暴発した末にと暴れてしまわないのは、さすがの年の功というやつだろか。

 “不法侵入して来た時点で、王家の威容を今更恐れるような奴とは思えんしな。”

 きっと、通り魔的に一騎打ちだけをこなして、彼の予想図での当然の結果、相手を叩きのめした上で、脱兎のごとく退散すりゃあいいとか何とか、片手間仕事のように考えていたらしく、その計画に意外な誤算があってのこの現状。そして…今やその素性も明らかにされ、この地で暴れると、様々な方面へ迷惑がかかる身となってしまったとあって。已を得ず、静まっておいでなのに違いない。自分から出てくと言い出して、その折に辞表か餞別代わりの一騎打ちをと言って来るってところかなと。今のところはそんな予測を立てちゃあいるゾロだったが、


  ―― まさかまさか、
     そんな暢気なことを考えてる場合じゃあなかったとは。


 オリーブやオレンジの白い花が、緑の梢のあちこちへ可憐に散りばめられており。それをゆったり揺らす潮風が、さわさわ心地いい細波の音でロータリー広場を洗う中、

 「なあなあウソップ。」
 「んん?」
 「あの地図使った探検、いつ出掛けんだよvv」
 「…っ☆ ば、馬鹿ヤロっ、こんなとこで持ち出すんじゃねぇよ。」

 こそこそと話を切り出したルフィの口許、指の長い手でガバチョと押さえ込んだウソップだったりし。


  ―― え? あの地図って…もしかして?





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  *えらいこと間が空いてしまいました、すいませ〜ん。
   本誌の展開が気になってたのとそれから、
   梅雨が明けた途端のいきなりの暑さに、
   あっさりカウンター食らったからです。
   ところで皆さん、
   おおお、覚えておいでなんだろか?
   ちょこっと前に、
   とある…ややこしいコラボ作品があったってこと。


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